2024/11/27(Wed)
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2012/03/16(Fri)
睡蓮さん宅蜂散さんお借りしました。
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荒々しい音で立ち上がり店をでた。
怒りにまかせてドアを叩きつけようとした瞬間、
傷ついた表情が浮かんでドアだけはそっと手を離す。
最後まで乱暴にできないあたり、俺はヘタレで
分かっているのに言わない俺は、最悪だ。
日が落ちて少し経った街を、まとわりつく熱気を掻き分けて歩く、歩く。
弱い風は熱をかき回すだけで何の意味もなさず、
爪で切り込みをいれたような頼りなさげな三日月も
耳元で鳴く蝉の声すら
現実味がなものに思えた。
見えるもの聞こえるもの
全てが俺に届いてこないんだ。
「ツユキ、次の日曜日花火を見に行こうぜ」
皿を拭く白くて細い指を見ながら言った。
ケーキを食べてツユキが俺のために淹れてくれたコーヒーを飲んでいた俺は
浴衣を着たツユキにあれやこれやをしちゃう想像なんかをしたりして
いやそれよりも今夜こんなことをして可愛がってやるんだと
にやつく口元を抑えるのに必死で
「俺、行けません」
なんて言葉が返ってくるなんて思ってもみなかった。
「どうして!?
ツユキだって祭りすきだろ!」
「好きですよ。
でもその日はお店の仕入れがあるので、」
意識しないうちに口調が荒くなり
気付いた時には喧嘩になっていた。
「店なんてどうでもいいじゃねぇかよ!」
傷つけることを言ったし
「俺じゃなくても、誘う子がいっぱいいるでしょう!」
言いたくないことを言わせた。
「もうお前なんか誘わねぇ」
馬鹿なことだ。
「もうここには来ないで下さい!!」
本当に俺ってば最悪。
「…‥あーあ、…」
ツユキの事になると必死になってしまう。
他の子だったら、きっと「残念だね、また今度」って笑って許せるはずのことも
みっともないくらい必死になって、格好悪い。
情けない。
相手が見えないくらいになってしまって、
いつの間にか
自分の為にツユキを傷つける。
街灯の並ぶ道の中央をあるく。
生ぬるくて鬱陶しい光が靴先をオレンジに染めていた。
今夜はモンスターの俺が歩けるほどに、人は見当たらない。
そのはずだよな。
こんな暑さの中出歩きたいだなんて酔狂な馬鹿はそういない。
それに馬鹿は俺一人で十分。
「蜂散さん!!」
ふいに名前を呼ばれて振り返った。
額の汗を手の甲で拭いて
肩で息をしながら駆け寄ってくるツユキ。
街灯のぼんやりとした光でも
頬が真っ赤になっているのが見て取れた。
「…‥はぁ、はちる、さん。あの、俺…」
ツユキが何を言いたいか、
聞かなくても解った。
落ち着かない息の間から紡ごうとする言葉。
でもそれはツユキに言わせる言葉じゃないんだ。
銀の髪を出来るだけ優しく梳いて絡める視線。
光を反射する緑の目。
綺麗だ。
「ひどいこと言って、
傷つけて悪かった」
もとはといえば俺が悪いんだ。
ごめんね、
は言えなかった。
ツユキが俺の手をひいて
いきなり走り出したからだ。
「どうしたんだよツユキ!」
「とにかく来てください!」
強い力で引っ張られ、足も自然に動く。
どこに向かうか見当がついた頃には、
ツユキの足取りは重くなっていたけれど
俺は苦しそうなツユキに休もうと言い出すことも
あの日のように抱き上げることもしなかった。本当はお姫様だっこをしたかったんだけど。
だってこんなにも一生懸命な姿よりも上手く気持ちを伝える言葉なんて
ありはしないと思わないか?
「とう、ちゃく、で、す」
はぁはぁと息を切らせて座り込むツユキ。
息切れの心配のない俺も隣に座って、空を眺めた。
俺が連れてこられたのは、クリスマスを2人で過ごした場所だった。
静かで、星が綺麗だ。
でもそれしかない。
イルミネーションも満月もない。
それでも俺は十分だ。
隣にツユキがいるだけで、
闇は寄り添う猫のように柔らかく美しい。
「蜂散さん」
「んー?」
「俺、思うんですけど
1人でいれば何でもないものが、
一緒にいるだけで特別なものに思えたら
それってもう恋とか愛とか
そういうものだと思うんです」
見えないものだからそうやってしか確かめられないけど、
特別なことじゃなくても
確かめることはできるって思いませんか?
細い肩をつかんで目を合わせた。
緑の目も躊躇いがちに見つめかえしてくる。
「ツユキが一緒に居る今が、すごく特別で…」
…‥すごく幸せ。
ツユキだけにしか聞こえないように
耳元で囁いてやると
ツユキは真っ赤になった耳を押さえて怒った顔で俺を睨んだ。
「な!な、なに言ってるんですか、恥ずかしい」
自分で言ったくせに。
でもいつもみたいに突き放されることはなかった。
背中に回される手が愛おしい。
「蜂散さんの肩の向こうの月だって、見たことのない優しい色ですよ。
あんなに細くても力強い
…1人でみた満月よりもずっと」
抱き合っているせいで顔は見えないけれど
確かにツユキが微笑むのが分かって俺の口も自然に緩む。
あぁ、愛しあってんだなぁ。
「ツユキはロマンチストだな」
「意外ですか?」
「ううん、予想通り」
「…‥嫌ですか」
「大好きさ!」
気持ちが少し残らず伝わるように
俺は両腕にありったけの力をこめてツユキを抱きしめた。
「苦しいって言ってるでしょ」
華麗に決まったボディーブロー。
のた打つ俺に
ツユキがぽつんと呟いた。
「でもやっぱり、
せっかく夏なんだから夏らしいことしたいなって思うんです、俺も。」
「…‥?」
「蜂散さんのすきな浴衣もちゃんと着ますから、」
「…うん?」
「ーー~っ!
だからっ!!お祭りに連れてって下さいって言ってるんですよ!
蜂散さんのばか、はげ、へたれ」
怒って背ける横顔にどうしようもない愛おしさがこみ上げて、
「もちろん!
俺の知ってる中で一番のお祭りに連れてってあげる!!」
指先と唇に一つずつキスを。
びっくりして固まる君を押し倒せば、
『Hot Hot Summer!』
2012/03/16(Fri)
睡蓮さん宅蜂散さんお借りしました。
学パロ
食堂へ向かう生徒達でごった返す廊下。
いったいこの学校のどこに
こんな沢山の生徒がおさまっていたんだろうと思う。
その溢れる人の中で、
もしかしたらと思って目を凝らしてしまう、
馬鹿な俺。
もう癖になってしまっているほど自然に探してしまうんだ。
会いたくないのに、
会いたいあの人。
偶然に見つけたあの人は
俺達のグループとは逆向きに、食堂に背を向けて歩いていた。
すれ違う女の子達に名前を呼ばれて手を振ったり、小突かれておどけてみたり。
きっとこの前みたいに、
挨拶しても俺には気づかないのだろう。
あの人が俺の事を、
なんとも思ってないのは知ってる。
知ってるんだ。
でも、なんだか。
目をそらすこともなく、
下を向くこともなく、
あの人なんて全然目に入っていない、
友達の話に夢中、
の振りをして
あ、今すれ違った。
学年も階も全然違って会うことなんてめったにない。
こうやってすれ違うのはものすごいチャンスなのに。
何で俺はいつもこんなつまらない意地を張っているんだろう。
あの人の視界に入りたいのに、自分から飛び込むことなんて出来ない。
だって悔しいじゃないか!
俺ばっかり必死みたいで。
かわいげがないなんて自分で分かってるけど、
それしか出来ないんだ。
少し歩調を緩めて、友人達からそっと離れる。
誰にも気付かれることなくはぐれて、
後ろを振り返った。
背中だけでも見ようと思ったあの人はもういなくて、
誰にも気付かれないようにため息を落とした。
「おーい、ツ・ユ・キ」
後ろからの声に振り向くと、
え、
うわっ!
反射的にあとずさる、が、
手首を掴まれた、逃げられない!
そのままぐっと引き寄せられて
あの人の顔が目の前に来た。
きてしまった。
「なんで無視するんだよ。寂しいじゃないか!」
にっこり笑われると、
頬が熱くなる。
俺は堪えられなくなって、
思いっきり顔を背けた。
だって、
「悔しいじゃないですか!!」
2012/03/16(Fri)
睡蓮さん宅のお子さん方をお借りしました。
鯉壱さんお誕生日。
なぜだろう
パーティーは夜のはずなのに
僕と緑ちゃんはソファに座らされて
とかいうハチコは僕達のまわりでそわそわして
訳が分からない
ひなたぼっこで忙しいのに、いいからいいからと僕の手をひいて
パーティーの準備をしている緑ちゃんまだ一生懸命に説得して
理由を聞いても答えない、嬉しそうな含み笑いのハチコ。
どうしたんだろう。
手持ち無沙汰に窓の外を見れば
薄桃色の梅が色付いて
クローバーがその緑を誇らしげに凛とたって
やっと暖かくなった日差しは黄色くたゆたう。
あぁ、そうか。
まだ時折、冬の余韻をなびかせて銀色の風が吹いている。
チャイムが鳴り、玄関はすぐそこにあるのにわざわざ走っていったハチコが連れてきた
はじめましてと小さく頭を下げるその子は
・・・・このお方はもしかしてと呟く緑ちゃんも
僕も、知らないけれど知っている
「ツユキ君だ」
驚いて顔を見合わせるハチコとツユキ。
「なんで分かるのさ、鯉壱ちゃん!」
そう、僕達ははじめましてのはずだけど
「いつもハチコから聞いてるから、分かるよ」
緑ちゃんもそうでしょ?
彼女は肯定の印にちょこんと微笑んだ。
「今日は何故いらしたので御座いますか?」
「えっと、お誕生日のお祝いに」
ツユキが持っていたバスケットを探り、出てきたのは可愛いラッピングのピンクの箱。
「お誕生日おめでとうございます、鯉壱さん」
「わぁ、ありがとう!」
受け取り中身が気になって振ってみるとカタカタと鳴る。
何が入っているんだろう、気になるなぁ。
今開けちゃいたいな、いいかなぁ
・・・あれ、でもちょっとまって
「なんで僕が鯉壱だって分かったの?」
僕が緑ちゃんで、緑ちゃんが鯉壱かもしれないでしょう?
きょとんとしたあと小さくツユキは笑った。
「いつも蜂散さんから聞いていますから」
「あの子、ハチコが呼んでくれたの?」
「そーだよ。俺から鯉壱ちゃんに愛を込めて!」
「気持ち悪いですわ」
ハチコが僕の肩を抱き寄せて、照れんなよとかほざく。
どんな顔していつもこんなこと言ってるんだろう。
ハチコと目があいニヤリとされて
とりあえず鼻をつまんでおいた。
「痛いよ、鯉壱ちゃん!
愛が痛い!!」
「ツユキが喫茶店やってんのは前に言っただろ。
それで今日は特別にこの時間にお茶会をやってくれるように頼んだんだ」
リビングから見えるツユキは忙しそうだけど、
なんだか無駄がなくて丁寧に指先が動いていた。
「やっぱりお手伝いして差し上げたほうがよろしいかしら。
慣れないキッチンではさぞ大変だと思いますわ」
「大丈夫だって。必要な道具とかは全部準備しといたから。
ツユキに任せて座ってろよ」
「ハチコのくせに準備万端なんだね」
「気持ち悪いですわ」
涙目になったハチコなんて無視。
だってプレゼントの箱の方が可愛いから。
「何が入っていらっしゃるのでしょうね」
「・・・・・わぁ、綺麗・・・」
ふわふわのクッションのなかに包まれているカップとポット。
そっと取り出してしばらく眺めた後、
もう一度、箱にしまって
「どこいくんだよ鯉壱ちゃん!」
ひょいとキッチンを覗けば、真剣にツユキは鍋ををかき回していて
突然現れた僕にびっくりしたみたいだったけど
「このカップでミルクティーを飲みたいんだけど」
そう告げれば
「かしこまりました」
眉を下げて嬉しそう言った。
テーブルの上にはクッキーと色とりどりのマカロンに
ミルクティーはチャイで淹れて。
お店のこともあるし一足お先に帰ろうと思っていたのに
緑さんに鯉壱さまも喜びますわと席を進められれば断れなくて
結局俺は鯉壱さんの目の前に座っている。
鯉壱さんのはじめの一口はやっぱりミルクティーで、
少しずつの不安と期待を押さえ込んで
俺はそっと、その口元を見やる。
口から離れるカップの陰で薄く溜め息を落としながらふわりと微笑み、
「なんだか、とっても幸せ」
鯉壱さんの呟きは俺の心にぽつりと落ちて
綺麗なマーブル模様を描いた。
「送っていくよ」
流石に帰らなくちゃいけない時間になって、
玄関まで来てくれた蜂散さん。
「鯉壱さんのお祝いですから。
一緒にいてあげてください」
そんな俺をじっとみて
ねぇ、ツユキ。
わざとらしい深々とした溜め息をつき
「ちょっとでもいいからさ、嫉妬とかしないの?」
「・・・は?どうして?」
してると嬉しいのに、
蜂散さんは試すように俺を覗き込む。
「俺と鯉壱ちゃんはさ、ツユキと出会う前から一緒にいるんだよ」
「だから何だっていうんですか?」
「時間的な繋がりはツユキよりもずっとあるんだよ」
「知っています。
・・・・・でも、何も気にしてませんってば」
「本当に?」
「・・・本当です」
「絶対に?」
「絶対です!」
思わず大きな声をだしてしまう。
少し驚いた蜂散さんにごめんなさいと俯くしかない。
「はじめて出会って沢山お話しして、
鯉壱さんって嫉妬とかそういう感情から最も遠い人だと思いました」
逆に俺は鯉壱さんに出会う前から、もうすでにそんな感情を持っていて。
俺ばっかりこんな気持ちで本当に醜いって分かってるから、
だから今日は絶対に考えないようにしてました。
でも、本当は気にしてしまうんです。
俺だって分かってました。
でも蜂散さんから直接そんなこと、いわれると。
段々声が小さくなって
最後には震えだして
視界が歪みはじめた頃には
蜂散さんに抱きしめられていた。
「悪かった。
ごめんツユキ」
1つだけ落ちた涙を唇で掬われる。
「傷つけてごめん」
声を出してしまえば、我慢できなくなりそうで
首だけを横にふった。
「でもね」
俺と鯉壱ちゃんは
俺とツユキのような関係にはならないんだよ
「どう、して?」
今度教えてあげる
優しく耳元でささやかれてじわりと耳に熱が集まった。
「・・・なんだか嬉しそうですね」
「うん」
「悲しくなりませんか」
「うん!」
背中にまわされていた手に力がこもった
「なんだろうツユキとはね、今までと違う感じがするんだ」
「・・・違う?」
「そ、幸せになれそうな感じ!」
蜂散さんにそんな嬉しそうな顔をさせられるのが俺だと分かって
嬉しくて
目から涙を押し出し、笑う。
「っ、もう!そんな可愛く笑うなんてさ、反則。
ここで押し倒してもいいかな」
真剣な表情の蜂散さんのすねを蹴り上げて
口に1つキスを。
「ばーか。蜂散さんなんて嫌いです」
でもちょっとだけ好きです。
ちょっとだけですけど。
「やっぱり、まだいた!
ね、絶対にまだいるって言ったでしょ、緑ちゃん」
「きっとハチコがツユキさんをお離しにならなかったのでしょう、お可愛そうに」
「うるせーよ」
ツユキの目の前に立つハチコを押しのけて
「美味しいミルクティーだったよ。
プレゼントもありがとう。
ミルクティーが気に入ったからまたお店にもお邪魔したいなぁ」
にっこりとツユキに笑いかけた。
ツユキもぎこちなく
でも確かに微笑んだ。
「お待ちしています」
それでね、
プレゼントにもらったカップとポットを差し出した。
包むのに時間がかかってしまって不器用な僕ではぐしゃぐしゃになってしまったけれどちゃんと自分でやったんだ。
「これ、持っていて欲しいんだ」
不安そうな顔のツユキ。
違う、違うよ。
君が考えているような、
プレゼントが気に入らなかったからとか
そういう理由ではないんだよ。
むしろその逆、一瞬でお気に入りになっちゃったから
「今度君のお店に行ったときは、
このカップで」
「また何度でもお祝いしようよ!」
2012/03/16(Fri)
睡蓮さん宅蜂散さんお借りしました。
学パロ
爆発前のカウントダウンみたいに
拍を打ち鳴らし、視界をぶれさせ、手を震わせて
耐えられない
俺の心臓は、今にも
「うわっ!!びっくりしたー・・・どうしたん?ツユキ?」
一瞬ぽかんとした後
耳まで赤くして俺の背中から慌てて離れるツユキ。
わたわたしながら逃げようとする手を引きすっぽりと抱き込む。
逃げられない絶対的な身長差で抱きしめて
極めつけに耳元で優しくささやく言葉は
「・・・・つかまえた」
さらに赤くなったツユキに
旗をあげるかわりに白いため息をつかせた。
あぁ、もうどうしたんだろう俺。
いつもいつも俺の部屋で一緒にご飯食べて、寝て、喋って
こんな笑顔だって毎日見てるのに。
蜂散さんの一つ一つの仕草にうるさいくらいどきどきしてる。
今だって、ほら。
聞こえるはずのない鼓動が体中に響いて
こんな大きな音だったら、蜂散さんにばれてしまう。
恥ずかしくて口に出せなくて必死に隠してる
大好きって気持ちが。
「おーい、ツーユーキー。本当に大丈夫か?
そんな可愛い顔でぼぉっとしてると、お兄さん襲っちゃうよ?」
両頬をつままれて引っ張られる。
「白くてやわらかくてすべすベvv
味見したいな、舐めていい?」
「うぁ・・・んぅっ、ちょ、ちょっとやめてください!!」
「あ、今の声良い。喘いでるみたいだった。もっかい言ってくんない?
それにそういう風に抵抗されるとちょっとそそる」
「あ、喘いでなんかいません!
もう離してください!!エロい、変態!」
必死に手を振りはらうと、不満げに蜂散さんは俺の腰に手をまわしたけど
すぐに意地悪そうに笑った。
腰の触り方が絶対にエロい!
抗議するために蜂散さんに目を向けたのに
何を勘違いしたのかそっと唇を重ねられた。
背骨を駆け上がる喜びと
その後体中に広がる甘い痺れ。
どんどんと深くなるキスは思考を止めて
言葉にできない思いを伝え合うには十分だと思った。
「本当にどうした、ツユキ。熱でもあるか?
いきなり抱きついてきたり、俺の顔に見惚れたりさ」
嬉しいけどね、心配だよ
眼鏡の奥で蜂散さんの目が俺を映して
またどきりと鼓動がはねた。
夕方バイトから帰った蜂散さんは
めんどくせぇな、なんて言いながら眼鏡をかけてローテーブルに大学の宿題を広げた。
俺がコーヒーを出して邪魔にならないように、でも近くに座ったのは
真剣な顔をした蜂散さんを見ていたかったから。
蜂散さんには珍しいきりりとした顔や
分厚い本をめくりながら、時折ずれた眼鏡を直して、ペンを走らせている
目線に、指先に、横顔に
抑えきれないほどの、衝動。
俺の記憶の最後は大きな鼓動で締めくくられていて。
なんて恥ずかしい。
気付いたら大きな背中に抱きついていたんだ。
じっと心配そうに顔を覗き込んでくる
蜂散さんにきっと赤いであろう頬を見られたくなくて
ぎゅっと抱きついて、大丈夫です、と呟いた。
そういえば、あの時
夕焼けに染まった屋上で思いを告げられたあの時に。
はじめてみた蜂散さんの真剣。
拒否しても離してなんかやらないと、
頷くまで何度も言ってやると強く主張する目にとらえられて
俺は慌てて目をそらしてしまったけど
本当はすごく嬉しかった。
泣いてしまうほど。
でも結局そのまま蜂散さんの思いはたくさんもらったのに
俺はなかなか言えないままでいる。
臆病な俺は恥ずかしいと顔を隠し
見つめれば見つめ返される強さに負けて
すっと逃げてきた。
伝えたい。
あなただから好きだってことを。
知りたい。
あなたへの思いがどれほど伝わるかってことを。
確かめたい。
あなたじゃなくちゃ駄目だってことを。
いつもは恥ずかしくて怖くて
簡単に口になんてできないけど、
俺を好きでいてくれる気持ちが伝わるから、
あったかくて大きな手が髪を撫でるだけで分かるから、
だから大丈夫、自信を持って思いっきり大きく
爆発するほど溜め込んだ、好きを
鼓動をカウントダウンに!
BLAST!!
「俺、蜂散さんのこと…す、好き、です!」
2012/03/16(Fri)
蜂散さんとツユキの出会い話。
睡蓮さん宅蜂散さんお借りしました。
“close”の札のかかるドアを開け中へ。
食器を洗っていたぎんいろが顔をあげて
諦めたように言った。
今日はもう閉店しました。
「そんなこと知ってるさ」
だから来たんだ。
ぎんいろの目の前のカウンター席に座り
「いつもの。と、今日はケーキも」
「かしこまりました」
サイフォンなどを準備するぎんいろを
湯気の向こうに見やる。
「最近俺来てなかったから、寂しかっただろ?」
「まさか。早くお店を閉められてよく寝れました」
ぎんいろの愛想の悪さは常連客の俺にとっちゃご愛嬌で、可愛いもんだ。
にやにやと顔をのぞき込むと
なんですか
すごく嫌な顔をされた。
ぎんいろが喋ってくれなくなって
俺は仕方なしに手近にあった新聞を開いた。
餌のテントウムシの減少に有名人の結婚離婚騒動。
それにモンスターの襲撃増加に警戒強化、か。
リヴリーの世の中も平和なもんだ。
「あ、こんばんは!蜂散!!久しぶりー。ほんと久しぶりだよね」
新聞を引ったくられいきなりのマシンガントーク
「そうだな、リーシエ。配達の帰りか?」
「そ。今日は量がこれまた多くって。時間かかっちゃった」
ぎんいろがお茶でも飲むかと聞いたが
リーシエはすぐに上に行くと断り、俺の横に陣取った。
こりゃすぐに上には行かねぇな
こいつのトークは一度始まったら終わりゃしねぇんだから
「いやーそれにしても。やっと蜂散が来てくれて良かったな、ツユキ」
ぎんいろが眉をひそめ、
俺は意味が分からずリーシエの言葉を待つ。
「だってね、蜂散!
ツユキは最近蜂散が来ないから寂しそうにしてたんだよ。
夜とかもね、片付けが終わってもなかなかお店から帰って来ないし、
部屋でもため息ついてるし、ねー」
ぎんいろを見ると耳まで赤く染めて、ふいと目をそらした。
…‥お!もしやこれは。
「だからさ、今日はオレから蜂散にお願い!
次来る日とかさ、ちゃんとツユキに教えてあげてよ。
ツユキ待ってんだからさぁ。
こんなにつれない態度とってるけど、本当はツユキは蜂散のこ」
ゴンという鈍い音でリーシエのマシンガントークが終わった・・・終った!?
手にフライパンを構えたぎんいろが強制終了させたようで
「…‥ちょっとこのうるさい屍を二階に上げてきますから」
目が怖かったのでなにも言えない、頷くしかない、笑えない。
物言わぬリーシエを背負ってぎんいろは階段を上がっていった。
ぎんいろが降りてきて、ケーキをだし
「リーシエの言ったことは忘れて下さい」
「忘れろっつったって忘れられねェって。だってありゃ裏の意味をたどれば…‥」
ぎんいろが俺のこと気になってるってことだろ
無表情のぎんいろはフライパンを握りしめて・・・・
冗談っぽくからかってみたかったが
自分が冗談じゃない状況になりそうだったのでやめた。
俺は本気なのになぁ。
「そ、それにしても!
今日のケーキも美味いな。見た目も綺麗だし」
「気に入りましたか?」
「あぁ、このケーキマジ美味い」
あ、やっと笑ってくれた。
ぎんいろが笑うことなんて滅多にないから、
こっちまでうれしくなる、可愛いって思う。
「知り合いに持って帰ってもいいか?」
「もちろん!すぐに包みますね。いくつにしますか?」
「じゃ3つ」
「知り合いって前に話してた、鯉壱さんと緑さん、ですよね?」
「そうそう。後の1つは俺の分で」
「ケーキが気に入ったら、今度皆さんでコーヒー飲みに来てくださいね」
「鯉壱とはいいけど、みどりのぽんぽん野郎とは嫌だ」
「そう言わずに」
待ってますから
あぁ、俺はこの笑顔を独り占めしたくて
やっぱり1人で店に来るのだろう。
手際よくケーキを包みカウンターから出てきて俺に手渡すぎんいろ。
俺よりずいぶんと背が小さい。
小さいって言うと怒るから
「可愛い、それと美味そうだ」
ぎゅっと抱きしめて
軽くキスした
コーヒーのいい匂いがする
固まっているぎんいろの頭を撫でて
「次は…‥そうだな満月の夜に」
じゃあな
派手にベルを鳴らし俺は店をでた。
ツユキが振り向くと
「あ、鳶梅さん」
ちゃっかりカウンター席に座っていて
「コーヒーを一杯くださいな」
「はい」
カップの準備をする手を止め
「あ、あの、次の」
「満月の日は4日後ですよ」
心の内を見透かしたようににっこり笑って告げられた。
あの日も“close”を無視してカフェに入ったのを覚えている。
店に入ったのはそこにカフェがあるから、とかそれくらいの理由。
すみません、今日は閉店しました
カウンターの奥からでてきた銀髪の子を見て俺は決めた。
ここでコーヒーをのむ!
どうやら一目惚れのようだった。
銀髪の子を見てにやける俺に
俺の顔を見て銀髪は表情をかたくした。
「俺を食べる気ですか、モンスターさん」
そう思うだろうなぁ
モンスターがリヴリーの店に入れば、当然。
でも
「コーヒーを飲みたいだけ、俺は。お前を食べる気はねぇよ」
本当デス!
柄にもなく俺は真剣な顔をした。
銀髪はふぅとため息を付き
「…‥お好きな席に座って下さい」
メニューを差し出した。
「それにしても、お前可愛いな」
「かわいい!?」
「美味そうだし」
「…‥食べる気満々ですね」
いやいや、そう言う意味ではなく
「加えて俺の好みの顔だし」
「俺は男です!」
「見りゃ分かるさ」
でも気に入った。その一言に尽きる。
「ま、コーヒーをイッパイくれ」
にやりとすれば
「一杯ですか、それともいっぱいですか?」いたずらっぽく笑った。
以来ぎんいろの店に行くのは決まって夜。
モンスターである俺がぎんいろに迷惑をかけぬよう。
そこで俺は毎回猛アタックを仕掛けるんだけど
ぎんいろは連れないし、釣れない。
結局俺がぎんいろの元を訪れた時は、
月が青白く痩せた
約束の日の4日後だった。
手に持った箱は、大した大きさでもないのにかさばった。
俺の手には松葉杖とプレゼント。
どうも欲張りだ
両手で持てるものなんてたかが知れてる
そしてあまりに少ない
ぎんいろは俺の姿を上から下までゆっくりと眺め
逃がさないようにかすごい速さで腕を掴んで。
ぐいと引っ張られ無理やりでも足は動く
けれど
「痛いよ、ぎんいろ!」
怪我への配慮はゼロ!
2階への階段を目指し歩く
あれ?
「おい、店はいいのか?」
今日はもう閉店しました!
そうして俺はある部屋に
引っ張られ押し込まれ突き飛ばされた。
何度も言うが
怪我人の扱い方じゃない!
気づけば俺はベッドの上で、腹の上にはぎんいろが乗っていて。
きっとここはぎんいろの部屋だ。
てことはこれはぎんいろのベッドで枕で
あ、折角だから匂いでも
「かぐな、変態!」
「ベッドってことは、俺らまだ付き合ってないけどそういう爛れた感じになだれ込んじゃう?
既成事実をつくっちゃう?それでもいいぜ!大歓迎」
「…‥ぼろぼろの体では俺に何も出来ないでしょう。特にこんな足では、ね」
ぺしりと叩かれ
走るじんと熱い痛み。
う、思わず漏れた声は
かっこ悪いもの以外のなにものでもない。
ぎんいろは一瞬――何て言ったらいい?――見たことの無い表情をつくった。
それは本当に一瞬で
すぐに眉はつり上がった。
「なんで体中怪我してるんですか?」
さっきからずっと怒ってる。
普段のぎんいろからは想像もつかない強く強く怒った声。
でも頭を巡るのは
何に怒っているんだろう。
約束の日を破ったことか?
ちょっと他のリヴリーに目移りしたことか?
他にも沢山。
要素が多すぎてわかんねぇや。
とにかく今は、俺の経験からいくと
プレゼントでご機嫌取り!
「これ、買ってきた」
今まで離さなかった箱を
ぎんいろの手の中においた。
開けてよ。
「気に入るだろうと思ってさ」
表情は俯いて見えない
だけど大切そうに包みを開く手をみて
きっと大事にしてくれるのだろうと思った。
そんな風に扱ってもらって
俺は今紙にすら嫉妬してる。
「通りかかった店でみつけたんだ」
リヴリーの雑貨屋だったけど店番が老人だったから、入れるかなって、油断した。
プレゼント用に包んでもらって、俺はちゃんと金を払って。
ほっとして店を出ようとしたときに
子供が「おじいちゃん、こいつモンスターだ」ってさ
いっぱい人が来て、石とか投げられて、大怪我して
「…‥あなたにはやり返すだけの力があるのに」
「ヘタレだから、俺は」
さすがに命の危機を感じたよあの時は。
本当逃げ切れてよかった。
プレゼント割れちゃってない?
あ、割れてないね良かった。
「てなわけで、あんまりみっともなくってさ。
約束の日に来れませんでした。
ごめん、怒ってんのなら許して」
顔の前で手を合わせてちらりとぎんいろを伺う。
「違います」
ぎんいろは呟いた
「違うんです」
プレゼントのマグカップを包む手の力がつよくなった。
「俺が怒っているのは」
自分になんです
きっとそう言おうとしたのだろうに
「…‥っ」
言葉は流れてしまった。
ぎんいろの顔はくしゃりと歪んで
ぽろりと涙が落ちる。
「どうした…‥!?」
分からない、いまだに何も分からないが
でも1つだけ分かった。
怒りは仮面だ。
隠していたんだ
さっき一瞬見せた顔
泣きそうなのをこらえるために。
「俺、蜂散さんの事…心配、してて。でも…それなら言って、おくべきだったのにっ」
何を?
止まらない涙を親指で拭ってやるも
どんどん溢れ、もはや手に負えない。
「…‥ひっ」
自分でしゃくりあげるのを止めようとするも
さらにひどくなって
「…‥リヴリー達は、モンスター、に対する警戒を…強化してるんです…
お、俺知ってたのにっ…」
あぁ何て優しい。
傷をうけたのは俺なのに
傷ついて泣いてくれるのか、ぎんいろは。
「…蜂散さんはこんなに素敵なものをくれるのに。
俺はあなたを思いやる
優しい言葉ひとつ言えない…‥!」
もどかしい
「そうやって俺は自分を守って。
結局あなたが傷ついた」
だからこんなに綺麗なマグカップ俺が貰う権利なんてない!
はっと気付いたようにぎんいろは零した
「…‥あぁ、こんな時になっても
自分の事ばかりだ、俺は」
やっぱり分からない。
でも何かが違う
「笑って!」
そうか
「笑えよ、ぎんいろ」
お願いだから
そんなこと言わないで
「俺がこれを選んだのは
ぎんいろにそんな顔をさせるためじゃない」
そんな事を思わせるためじゃない
ただ純粋に喜んで貰いたかった
それに欲張るなら
少しでも俺の気持を掴んで貰いたくて
「この手で掴めるものが少ないのなら
俺はひとつでいい」
たくさん掴めないのなら、ひとつだけ。
大切な意味を掴みましょう
この手が空を切らないように
お願い
あなたが俺の意味になって
「あなたがいなくちゃまるで意味なんてない」
ぎゅうとぎんいろを抱きしめる
背中に回された手に
感じる、言いようの無い愛しさ。
これが愛ってやつなのかなぁ
やっぱり俺にはよく分からないけど。
しゃくりあげるぎんいろの
睫にのった涙にそっと口付けた。
「…‥泣きっ面にハチ」
呟いたぎんいろは
涙目のまま、諦めたように笑った。
あなたがいるだけで
笑うだけで
それだけで、意味はあるのだ。
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