2024/11/27(Wed)
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2012/03/16(Fri)
***
→read more
月曜日。
気だるいオーラをまとって登校してくるフェアメル学園の生徒達。
それを尻目に朝からしゃきっと仕事する俺。偉い!
「織狐さん、何で紫陽花に水なんか遣ってるんですか!?」
「水遣りも大切な仕事ですのデ」
「紫陽花は水を遣らなくても育ちます。たまには水遣り以外の仕事をしてください!」
生徒達が好奇心に満ちた目でこちらを見ているのがわかる。
そして用務員の俺が先生に怒られている。
くそう。
いつもだったら生徒と俺の立場は逆なのに!
踵を返して歩き出した先生の背に向かって舌を出した。
その瞬間先生が怖い目で振り返って俺は慌てて舌を引っ込めた。
火曜日。
用務員室で猫と昼寝をしていたら小等部の子達が寄ってきた。
「こんにちはー」
「わ、ねこちゃんかわいー」
「だっこしてもいい?」
「りこさんまた寝てるの?」
安眠妨害され、うるさいあっちいけヨと言おうとしたとき、
あめあげると小さい手がさしだされた。
「あ、どモ」
あめは好きなのでもらって口に含む。
結局何も言えずに小さな侵略者を眺めていた。「あめでつられちゃうなんてりこさんもまだまだこどもだね」
大人びた子供の物言いに
「大人気なく生きるのがモットーだかラ」と
大人である俺は子供っぽく言い返した。
水曜日。
中等部の馴染みの生徒が数学の問題を持ってきた。
「コレ、解けます?」
にやりとした笑いにむきになって完璧に解いてやった。
言っとくが俺は図形の証明は得意中の得意なんだ。
どうだといわんばかりに目の前に回答を突き出すと
「…答えよりわかりやすいよ、すごい!!」
この瞬間がたまらないんだ。
俺だってまだまだいける。
木曜日。
雨が降っていた。
梅雨明けはいつだろうか。
高等部の玄関を通りかかるとため息をつき空を見上げる女の子。
「はイ」
「…え?」
「傘ないんだロ。貸したげるヨ」
「でも…」
いいってホラ、柄を握らせて
俺は用務員室まで必死で走った。
金曜日。
昨日の雨が晴れた。
体育の時間を通り過ぎる。
「あっちー」
皆口々にグラウンドを駆ける。
確かに暑い、暑いけどさ
「言葉にオリジナリティが、ないよネ」
同じ暑さでもいろいろ表現の仕方もあるだろうに。
学生でいろいろ学んでいるならうまく表現したらどうだ。
考えていると不意に影から出てしまった。
気をつけて影を歩いてきたのに!
強い日差しに溶かされそう。
「・・・あっツ!」
はっと口を押さえた。
俺にもなかった。
オリジナリティはどこへ消えた?
土曜日。
明るい月夜、本を読む。
学校の図書館から借りてきた、無断で。
昼間は暑くても、夜は涼しい。
静かに佇む校舎のシルエットは学校の怪談のような恐怖を感じさせるよりも、もっと美しいものに感じた。
「どうやら俺はこの学校が好きらしいヨ」
足元の猫が返事をしたつもりかにゃあと鳴いた。
だから俺は用務員をやってるんだ。
日曜日。
梅雨があけた。
暑いが絶対に「あっつー」なんて言わないと心に誓っている。
「校門の近くの紫陽花、綺麗ですね」
「まァ、俺が水遣ってるからナ」
女の子が傘を返しにやってきた。
俺は小等部の本棚を直していた。
月曜日でいいのにといったら、部活のついでですからと笑った。
「器用ですね」
「俺はやろうと思えば何だってできるんだヨ」
「もしかして先生に怒られたことまだ根に持ってるんですか」
「あ、見てたノ?」
「べって舌だすところまで。大人気ない大人だなーと思って」
「…うるさいナ」
「でも面白かったですよ」
少女は猫を撫でてから立ち去った。
そういえば午後に誰かが数学の質問に来るとか言ってたな。
それまでに水遣りでも済ませておくか。
校門まで行くと紫陽花が本当に見事に色づいていて
昨日読んだ本の言葉を使って言うならば。
そっと花に触れて呟いた。
―――あぁ、匂いたつように美しい。
俺が在る意味はここにある。
PR
←close
←BACK
HOME
NEXT→
ARCHIVE
2012年03月 (10)
ADMIN
WRITE
Powered by [PR]
Design by
Sky Hine
PR:
忍者ブログ